【研究成果】ハダカデバネズミ TMEM2はヒトTMEM2同様に生理的なヒアルロン酸分解活性を欠く!

―長寿メカニズムのひとつである高分子ヒアルロン酸蓄積の不思議に迫る―

2024年7月24

研究教育成果

香粧品健康学寄附講座の佐藤 伸哉(2019年度修士修了)、阿部 弥紀(2024年度卒)、水谷 有紀子特任准教授、井上 紳太郎特任教授と、愛知学院大学、愛媛大学、TOA株式会社(旧:日本コルマー株式会社)との共同研究成果が、Archives of Biochemistry and Biophysics誌に掲載されました。

研究成果の概要

ハダカデバネズミは、マウスの寿命が3年程度であるのに対し、約30年も生きる長寿げっ歯類です。しかも、生存期間の約8割の間は繁殖能力や活動量などが保たれて老化兆候を示さず、ガンになることもなく、加齢とともに死亡率が高まることもない、いわゆるピンコロリを実現しているねずみです。そのメカニズムのひとつに、ヒアルロン酸合成酵素HAS2の高発現による超高分子のヒアルロン酸(分子量6001200万)の蓄積が関与していることが報告されています。高分子ヒアルロン酸は、抗炎症、抗酸化、抗血管新生活性をもつため、老化(慢性炎症が要因のひとつ)しにくく、酸化ストレスに耐性で、血管新生を伴うガン増殖を抑制している可能性があります。以前、私たちは、マウスで膜型ヒアルロニダーゼとして報告されているTMEM2について、ヒトでは活性をもたず、むしろ高分子ヒアルロン酸を蓄積させる制御因子としてはたらくことを明らかにしましたが(2023年5月17, https://www.gifu-pu.ac.jp/news/2023/05/-tmem2-.html)、今回、ハダカデバネズミのTMEM2を調べたところ、ヒトTMEM2と構造的、機能的に類似しており、生理的なヒアルロン酸分解活性を欠くことを明らかにしました(図)。予備的に、ハダカデバネズミ線維芽細胞のRNA(熊本大学・三浦 恭子教授提供)を調べたところ、TMEM2とHAS2が高発現していたのに対し、ヒトでヒアルロン酸分解に寄与しているHYBIDは低発現でした。

今回の研究成果から、TMEM2には構造的・機能的に種差があり、マウスTMEM2はヒアルロニダーゼとして機能するが、ハダカデバネズミとヒトでは、ヒアルロン酸分解活性に重要なGGドメインのアミノ酸残基がマウスとは異なっており、生理的なヒアルロニダーゼとして機能していないことを明らかにしました。

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本研究成果のポイント

・ハダカデバネズミのTMEM2は、ヒアルロン酸分解活性に必須のGGドメインの2つのアミノ酸残基がマウスとは異なるため、生理的なヒアルロン酸分解活性を欠いている。

・ハダカデバネズミTMEM2は、構造的・機能的にマウスよりもヒトTMEM2に酷似していた。

・ハダカデバネズミの長寿に貢献すると考えられる超高分子ヒアルロン酸の蓄積は、HAS2の高発現に加え、TMEM2による分解活性欠如が寄与していることが示唆された。

論文情報

雑誌名:Archives of Biochemistry and Biophysics

論文名:Naked mole-rat TMEM2 lacks physiological hyaluronan-degrading activity

著者:Shinya Sato, Yukiko Mizutani, Minori Abe, Shinji Fukuda, Shigeki Higashiyama, Shintaro Inoue.

DOI番号:https://doi.org/10.1016/j.abb.2024.110098

研究室HP

https://koushouhinlabo.wixsite.com/gpu-koushouhin