薬効解析学研究室 安田 啓人 博士課程学生、中村 信介 准教授、嶋澤 雅光 教授らの研究グループは、京都大学高等研究院 和俊 特別名誉教授 (名城大学 教授) との共同研究により、眼内の恒常性維持機構である「網膜色素上皮細胞 (retinal pigment epithelium; RPE) による貪食機構」の破綻に小胞体ストレスの活性化が関与することを見出しました。本研究成果は2026322日に国際学術誌「Journal of Biological Chemistry」に掲載されました。

 視覚情報の受容と維持には、視細胞とそれを支持するRPEとの密接な相互作用が不可欠です (1A)RPEは、不要となった視細胞外節 (photoreceptor outer segment; POS) を日々取り込み・分解する(貪食)ことで、視細胞の恒常性維持に重要な役割を果たしています。しかしながら、加齢に伴いこの貪食機能は徐々に低下し、細胞内には未分解物の蓄積や代謝異常が生じることが知られています。これらの変化は、加齢黄斑変性をはじめとする視覚障害性疾患の発症・進展に深く関与していると考えられていますが、貪食機能低下に係る詳細な分子基盤に関しては十分に解明されていません。

 本研究では、近年さまざまな加齢性疾患への関連性が報告されている「小胞体ストレス」に着目しました。小胞体ストレス応答は、タンパク質の成熟・品質管理を担う小胞体内に折りたたみ不全タンパク質が蓄積することで誘導される細胞応答であり、細胞の機能に大きな影響を及ぼします。しかし、眼組織において、加齢に伴う小胞体ストレスの変化が眼恒常性維持に影響を与えるのかに関しては不明でした。

我々はまず、若齢マウス及び中年齢マウスの眼球を用いて小胞体ストレス関連因子のタンパク質発現を調べたところ、中年齢マウスのRPE-脈絡膜複合体において、複数の小胞体ストレス関連因子の発現が高いことが明らかとなりました (1B)。興味深いことに、この発現変化は、光刺激を脳に伝達する神経網膜では見られず、RPE-脈絡膜複合体でのみ確認されました。図1Bは論文情報に示したJournal of Biological Chemistryからの改変引用。

スライド1.JPG

次に、高度な小胞体ストレスがRPEの貪食機能に与える影響について、培養RPE細胞を用いて検討しました。その結果、小胞体ストレス誘導剤の添加により、RPEの貪食機能が顕著に低下することが明らかとなりました。さらに、この貪食機能の低下は、小胞体ストレスを抑制する複数のアプローチによって改善されることが確認されました。加えて、その分子メカニズムの詳細な解析を行った結果、小胞体ストレス誘導後に小胞体から細胞質へのCa²⁺流出が生じ、これにより切断酵素ADAM17が活性化されることで、POS認識受容体であるMERTKの切断が引き起こされることが明らかとなりました。さらに同時に、POS分解を担うリソソーム機能も低下することが示されました。これらの変化が相互に作用することで、RPEの貪食機能が多面的に障害されることが明らかとなりました(図2)。

スライド3.JPG

本研究成果のポイント・今後期待される成果

本研究により、加齢に伴い眼組織において小胞体ストレスが活性化すること、さらに過度な小胞体ストレスがRPEの貪食機能を障害する要因となり得ることが明らかとなりました。

今後は、小胞体ストレスを制御することで、加齢黄斑変性などの視覚障害の予防・治療や視機能の維持につながる新たな医薬品の開発が期待されます。また、本成果は、眼の恒常性維持機構の理解を一層深化させるとともに、その破綻に基づく疾患機構の解明にも寄与することが期待されます。

 

論文情報

雑誌名: Jornal of Biological Chemistry

論文名: Age-dependent induction of ER stress in retinal pigment epithelium impairs phagocytosis via ADAM17-dependent MERTK shedding

著 者: Hiroto Yasuda, Shinsuke Nakamura, Aimi Shirakawa, Yoshiki Kuse, Kazutoshi Mori and Masamitsu Shimazawa

DOI:  10.1016/j.jbc.2026.111397

研究室HP : https://www.gifu-pu.ac.jp/lab/seitaikinou/gyouseki/result01.html