本研究は、実践薬学大講座 病院薬学研究室と大垣市民病院内に設置されたサテライト研究室である医療連携薬学研究室により実施され、研究成果は、International Society for Affective Disorders(国際情動障害学会)の公式ジャーナル 「Journal of Affective Disorders」(掲載時Impact Factor: 4.9)に掲載されました。

研究背景と研究成果のまとめ

多作用点受容体標的抗精神病薬(MARTA)は、第2世代(非定型)抗精神病薬に分類され、統合失調症や双極性障害の治療に用いられています。これらの薬剤は、ドーパミンD2受容体やセロトニン5-HT2受容体を含む複数の神経伝達物質受容体に作用し、症状の改善に寄与します。一方で、高脂血症や高血糖などの代謝性副作用を示し、急性膵炎のような重篤な合併症を引き起こす可能性があると報告されていますが、その症例数は限られています。

近年、FDA(米国食品医薬品局)が集積した個別症例安全性報告データベース(FAERS)を用いて、クエチアピンと急性膵炎の関連についての報告がなされています。しかし、個別症例安全性報告データベースの解析には、報告バイアスなどさまざまな研究上の限界があることも指摘されています。そのため、急性膵炎の原因薬剤についての包括的な理解は、依然として十分ではなく、臨床現場の判断を十分に支える段階には至っていません。

そこで本研究では、リアルワールドデータのひとつとして近年多くの臨床研究で活用されている、保険請求由来のデータベース(DeSCデータベース)を用いて、日本国内で販売されているMARTAsと急性膵炎との関連性について調査を行いました。

検証には、暴露前後のシーケンス(順序)に対する対称性を評価する手法であるSequence Symmetry Analysisを用いました。

本研究で調査対象としたMARTAは、いずれもと急性膵炎との間に正の相関が示されました(表1)。

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また、層別解析では、MARTAs の ASR は男性より女性の方が高値を示しました。また、44 歳未満が最も高く、45~74 歳、75 歳以上の順でした。薬剤別の評価では、アセナピン、クエチアピン、オランザピンで同様の傾向がみられました。一方、症例数が少ないクロザピンでは 95% 信頼区間が広く、同様の傾向は確認されませんでした。

発症までの時間解析では、クロザピンを除く MARTAs において、急性膵炎の 50%以上が 650 日以内に発症していました。クロザピンの中央値は 864.5 日で、他の MARTAs と比べて長い傾向が認められました(図1)。

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急性膵炎は重篤で炎症性かつ生命を脅かす膵臓の疾患です。急性膵炎による死亡率は病態の重症度によって異なりますが、すべての胃腸・膵・肝疾患の中で、非悪性疾患による死亡原因の上位のひとつとなっています。そのため、急性膵炎が重症化する前に治療を開始することは、生命予後に大きく影響します。本研究の結果から、医療従事者は急性膵炎の発症リスクが高い患者において、MARTAs の使用を慎重に検討すべきであると考えます。

論文情報

研究室HP(URL)

病院薬学研究室:https://www.gifu-pu.ac.jp/lab/byoyaku/

医療連携薬学研究室:https://www.gifu-pu.ac.jp/lab/renkei/