実践薬学大講座 病院薬学研究室では、メラトニン受容体作動薬についての新たな薬効探索を実施しています。本研究では、2024年8月に当研究室が報告したメラトニン受容体作動薬の抗パーキンソン作用(【研究成果】個別症例安全性報告の解析によるメラトニン受容体作動薬の抗パーキンソン作用の臨床的検証)につづき、メラトニン受容体作動薬に抗不整脈作用の可能性が示されました。
本結果は、心血管系の毒性と疾患に影響を与える現代的な問題に関する研究をカバーする査読付きの科学ジャーナルである「Cardiovascular Toxicology」(掲載時Impact Factor: 3.4)に掲載されました。

研究背景と研究成果のまとめ

不整脈は多くの心血管疾患のリスクを高め、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。そのため、不整脈の効果的な予防と管理が重要です。不眠症の治療に用いられる薬剤のうち、ベンゾジアゼピン系および非ベンゾジアゼピン系の催眠薬は、不整脈の発症と関連していることが報告されています。一方で、メラトニン受容体作動薬には心臓を保護する作用がある可能性が示唆されています。

本研究では、一般財団法人日本医薬情報センターによるキュレーション済みのFAERSデータを用いて、メラトニン受容体作動薬と不整脈との関連性について調査しました。

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メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン, タシメルテオン*)およびベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZRAs)と不整脈との関連は、報告オッズ比(ROR)によって評価された。FAERSに登録された全患者のデータを解析したところ、メラトニン受容体作動薬(ROR: 0.47, 95%信頼区間;95%CI:0.41-0.54)は不整脈と負の相関を示しました。逆に、BZRAsは不整脈と正の相関を示しました(ROR: 2.71、95%CI: 2.66-2.77)。男性、女性それぞれ層別解析も実施しましたが、同様な関連性を示しました。
*タシメルテオンは日本未発売(2025年6月現在)

メラトニンの抗不整脈作用には、いくつかの作用機序が報告されています。一つは、ナトリウムチャネルタンパク質およびナトリウム電流の増加によって心筋の伝導速度が改善されることです。もう一つは、プロテインキナーゼCεの増加と脱分極の抑制によって、心筋のコネキシン43が保護されることです。さらに、メラトニンは抗酸化作用や抗炎症作用を発揮し、これらも抗不整脈作用に寄与していると考えられています。これらの作用は、MT1およびMT2受容体を遮断することで消失し、不整脈の発生と関係することが明らかになっています。これらの知見と本研究の結果から、選択的メラトニン受容体作動薬であるラメルテオンやタシメルテオンにも、同様の抗不整脈作用が期待されます。

本研究では、個別症例安全性報告を用いた、ヒトを対象にメラトニン受容体作動薬と不整脈との関連性を評価した初めての報告です。本研究で示されたメラトニン受容体作動薬と不整脈との関連性については、不整脈の新規治療戦略につながることが期待されます。

論文情報

研究室HP(URL)

病院薬学研究室:https://www.gifu-pu.ac.jp/lab/byoyaku/