大津 航 バイオメディカルリサーチ講座 特任講師、石田 紘大 同大学院生(令和2年度修士課程修了)らの研究グループは、ラジカルスカベンジャーNSP-116が過剰な光曝露による角膜上皮障害に対して保護効果を示すことを見出しました。本研究成果は、2021年4月20日に日本薬学会の学術雑誌であるBiological and Pharmaceutical Bulletinに受理されました。
角膜上皮は私たちが物を見るときに、眼の中で最初に光にさらされる組織であり、過剰な光、特に紫外線の曝露が電気性眼炎などの眼傷害を引き起こすことが知られています。また近年普及しているタブレットなどの端末には発光ダイオードが使用されており、それらから発せられる光にはエネルギー量の高い青色光が多く含まれていますが、それらによる角膜への影響についてはほとんど明らかにされてきませんでした。光による細胞障害にはラジカルによる酸化ストレスが関与するため、ラジカルの消去剤(ラジカルスカベンジャー)が過剰な光から細胞を守る働きが期待できます。そこで私たちはラジカルスカベンジャーとして働くNSP-116という化合物を用い、光による角膜からの保護について検討を行いました。
角膜上皮培養細胞系を用いた実験において、紫外線や青色光による細胞障害に対してNSP-116は細胞死を抑制しました(図1)。また、光によって生じたミトコンドリアの異常(図2)やp38 MAPKなどのストレス応答経路の活性化に対しても、NSP-116は保護的に作用しました。
最後に、私たちは青色発光ダイオード光曝露によるマウス角膜障害の新しい実験系を確立し、NSP-116が角膜上皮細胞の細胞死を抑制することを実証しました(図3)。図1~3は以下の論文情報に示したBiological and Pharmaceutical Bulletinからの改変引用。
今回の研究成果により、光曝露による角膜上皮障害にラジカルスカベンジャーが有効である可能性が示されました。
本研究成果のポイント
- UV-Aと青色LED光による角膜上皮細胞障害に対して、ラジカルスカベンジャーNSP-116が保護作用を示した。
- 光による角膜上皮ミトコンドリア傷害とp38 MAPKなどのストレス応答をラジカルスカベンジャーNSP-116は抑制した。
- 生体においても、青色LED光による角膜上皮障害に対しラジカルスカベンジャーが有効である可能性が示された。
論文情報
- 雑誌名:Biological and Pharmaceutical Bulletin
- 論文名:Free-radical scavenger NSP-116 protects the corneal epithelium against UV-A and blue LED light exposure
- 著者:Kodai Ishida, Tomohiro Yako, Miruto Tanaka, Wataru Otsu, Shinsuke Nakamura, Masamitsu Shimazawa, Hideshi Tsusaki, and Hideaki Hara