岐阜薬科大学(製剤学研究室・ナノファイバー創剤学寄附講座)、愛知医科大学(解剖学講座)、三菱ケミカル株式会社の共同研究グループは、肺からの空気漏れ(肺瘻)を閉鎖する、新しい生体接着性ナノファイバーシートを開発しました。
気胸は、肺から空気が漏れ出して肺がしぼんでしまう病気で、若年者から高齢者まで幅広い年代で発症します。また、肺がんなどの手術後にも、肺の切離面や損傷部位から空気が漏れ続ける「肺瘻」を生じることがあります。肺瘻が長引くと、入院期間の延長や患者の身体的・精神的負担の増大につながるため、空気漏れを確実に閉鎖することが重要となります。
従来、肺瘻の閉鎖にはフィブリン糊などの生体由来の接着剤や組織補強シートが使用されてきました。しかし、肺の表面は常に湿っており、呼吸運動によって繰り返し伸縮するため、こうした環境下でも十分な組織接着性と閉鎖性能を維持することが課題となっていました。
本研究では、エレクトロスピニング(電界紡糸)法を用いて、直径数百ナノメートルの極めて細い繊維からなるナノファイバーシートを作製しました。特に、繊維の内部と外側に異なる高分子材料を配置した「コア・シェル(芯鞘)構造」を採用することで、組織への接着性と水分に対する耐久性を両立させました。さらに、接着性を担うシートと耐久性を高めるシートを重ねて貼付することで、生体由来の接着剤を使用することなく、シート単独で肺瘻を閉鎖できる技術を開発しました(図1)。

図1 本研究の概要
ビーグル犬を用いた肺瘻モデルで評価したところ、5例すべてで閉鎖成功基準を満たし、平均気漏量は46.2 mL/minから1.8 mL/minに減少しました。また、術後1か月間の観察において、材料に起因する明らかな合併症は認められませんでした。
本研究成果は、肺外科手術後の肺瘻に対する新しい治療法につながるものであり、将来的には自然気胸などの治療への応用も期待されます。今後、さらなる有効性と安全性の検証を進め、医療機器としての実用化を目指します。
本研究成果は、岐阜薬科大学の田原耕平教授、愛知医科大学の大久保友人助教、内藤宗和教授、三菱ケミカル株式会社の原幸嗣氏らによる共同研究として、国際学術誌「Advanced Healthcare Materials」に掲載されました。
本研究成果のポイント
- 生体由来の接着剤を使用しない、新しい肺瘻閉鎖材料を開発
合成高分子(ポリビニルアルコールなど)からなるナノファイバーシートを用いることで、従来のフィブリン糊に依存しない肺瘻閉鎖技術を開発しました。 - コア・シェル構造によって接着性と耐水性を両立(図2)
組織に接着しやすい親水性高分子と、耐水性に優れた生分解性高分子を組み合わせることで、湿潤環境下でも閉鎖性能を維持できるシートを実現しました。
図2 コア・シェル(芯鞘)構造ナノファイバーの電子顕微鏡画像
左:走査型電子顕微鏡(SEM)画像。ナノファイバーが網目状に形成されている様子を示す。スケールバー:5 µm
右:透過型電子顕微鏡(TEM)画像。繊維内部のコア(芯)と外側のシェル(鞘)からなる二層構造を示す。スケールバー:200 nm
- 動物実験で肺瘻の閉鎖効果を確認し、医療機器としての実用化に期待
ビーグル犬の肺瘻モデル5例すべてで閉鎖成功基準を満たしました。今後、肺外科手術後の肺瘻や自然気胸などに対する新しい治療材料としての応用が期待されます。
研究支援
本研究は、令和6年度「藤田研究開発課題(シーズA相当)」(藤田医科大学)および令和7年度「AMED医療機器等研究成果展開事業(チャレンジタイプ)」の支援を受けて実施されました。
論文情報
- 雑誌名:Advanced Healthcare Materials
- 論文名:Electrospun Core-Shell Bioadhesive Nanofiber Sheets Enable Durable Pulmonary Air Leak Sealing Under Wet and Dynamic Conditions
- 著者:Tomohito Okubo, Kouji Hara, Naoyuki Hatayama, Kota Takahashi, Eriko Yamazoe, Takaaki Ito, Takao Takeuchi, Yoko Koide, Mayumi Yamada, Munekazu Naito, Kohei Tahara
- DOI番号:https://doi.org/10.1002/adhm.71789
研究室HP
製剤学研究室HP: https://gpu-seizai.jp/
ナノファイバー創剤学寄附講座HP: https://gpu-nanofiber.jp/
