岐阜薬科大学

概要

岐阜薬科大学アドバンストケミストリー研究室を中心とする研究グループは、球状活性炭を充填した固定床型カートリッジにマイクロ波を局所的に集中させ、廃棄ポリスチレン(PS)をスチレンモノマーへ連続的に変換するケミカルリサイクル法を開発しました。球状活性炭はマイクロ波を効率よく吸収し、35W以下の低出力条件でも固定床内部に 300℃を超える局所高温反応場を形成します。この局所加熱場へ PSのトルエン溶液を連続送液することで、添加剤を用いずに最大76%のスチレン収率を達成しました。さらに、試薬PSだけでなく、テイクアウト食品トレーや発泡ポリスチレン容器などの使用済みPSにも適用でき、67-76%のスチレン収率を示しました。副生成物は主にスチレンの二量体・三量体に限定され、モノマー回収後の分離・再資源化を見据えた比較的単純な生成物組成が得られました。本成果は国際学術誌 ChemSusChem に掲載され、Front Coverに選出されました。

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図1 本研究の概念図:球状活性炭へのマイクロ波集中と廃棄 PS からスチレンへの連続変換

 

研究の背景

プラスチックは食品容器や包装材、日用品など、私たちの生活を支える重要な材料である一方、  使用後に適切に回収・再資源化されなければ、河川や海洋へ流出し、長期間にわたって環境中に  残留することがあります。海鳥や海亀によるプラスチックごみの誤食、さらに微細化したマイク  ロプラスチックの環境中への拡散など、プラスチック廃棄物は世界的な環境課題となっています。

岐阜県には海がありません。しかし、私たちの生活圏は河川を通じて海とつながっています。河川へ流出したごみは下流へ運ばれ、最終的には海洋へ到達する可能性があります。そのため、海洋プラスチック問題は沿岸地域だけの問題ではなく、内陸地域を含めた社会全体で取り組むべき課題です。岐阜県では、NPO  法人長良川環境レンジャー協会(http://www.nagaragawa-kr.jp/)や長良川流域環境ネットワーク協議会(https://www.nagaragawa-e.net/)などが、長良川流域における河川環境の保全、ごみ拾い、環境教育などに継続的に取り組んでいます。 また、岐阜市では「川と海のクリーン大作戦」(https://www.cbr.mlit.go.jp/clean/)として長良川の一斉清掃が実施されており、河川から海へつながる流域全体での環境保全活動が進められています。このような活動は、環境中へ流出したプラスチックごみを回収し、河川から海へ流出する量を減らすうえで重要です。

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一方で、すでに流出したごみを回収するだけでなく、使用済みプラスチックそのものを廃棄物として残さず、再び原料として利用できる仕組みを構築することも重要です。特にポリスチレン(PS)は、食品容器、包装材、断熱材などに広く利用されていますが、機械的リサイクルでは、繰り返しの加熱・成形や汚染、添加剤などによって材料品質が低下する場合があります。

そこで注目されているのが、プラスチックを化学的に分解し、原料となるモノマーへ戻す「ケミカルリサイクル」です。PSでは、熱分解によって原料であるスチレンを回収することが可能ですが、従来の高温熱分解では、大きなエネルギー投入を必要とすることに加え、副生成物の生成や炭化などが課題となっていました。

本研究では、これらの課題を解決するため、マイクロ波を利用して必要な反応領域のみを効率的に加熱する方法に着目しました。マイクロ波加熱は、マイクロ波を吸収する材料へ直接エネルギーを供給できるため、反応器全体を一様に加熱する従来法とは異なる局所加熱が可能です。しかし、一般的な粉末活性炭をマイクロ波吸収材として用いると、粒子同士の接触部でスパークが発生し、安定した連続運転が難しくなる場合があります。

そこで本研究では、粉末ではなく球状活性炭を固定床として用い、マイクロ波エネルギーを反応部へ集中させる連続フロー反応システムを構築しました。これにより、使用済み PS を連続的に反応場へ送り込み、スチレンモノマーへ変換することで、プラスチックを再び化学原料として利用する新たな資源循環プロセスの構築を目指しました。

 

本研究成果のポイント

・球状活性炭にマイクロ波を集中し、反応部だけを局所加熱

球状活性炭固定床はマイクロ波を強く吸収し、35 W 以下の照射でも固定床内部に 300 °C 以上の局所高温場を形成します。反応器全体を一様に高温へ加熱するのではなく、PS が通過する固定床部分に熱を集中させることが本システムの特徴です。

・背圧制御により、安定した連続運転を実現

背圧をかけない条件ではトルエンの局所的な気化に伴って PS が析出し、流路が閉塞しました。 0.1-0.3 MPa では連続運転は可能でしたがスチレン収率は低く、0.5 MPa まで背圧を高めることでスチレン生成が大きく向上しました。0.5 MPa は本装置において高収率かつ安定な送液を実現する実用上の最小背圧として機能しました。

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図2 背圧が連続運転とスチレン収率に与える影響

 

・実際の使用済み PS にも適用可能

試薬グレードの PS に加え、テイクアウト食品トレーや発泡ポリスチレン容器を簡単な前処理(ラベル除去、切断、溶解等)の後に適用しました。これらの使用済み PS からも 67-76%のスチレン収率が得られ、原料の分子量や実使用履歴が異なる PS にも本法が適用できることを示しました。

・生成物組成が比較的単純で、モノマー回収に有利

生成物の主成分はスチレンで、副生成物は主に α-メチルスチレン、スチレン二量体、三量体に限定されました。副生成物の種類が限定されることは、トルエン/スチレン留分の蒸留回収や、残存オリゴマーのさらなる資源化を検討する上で重要な特徴です。

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図3 試薬グレード PS および使用済み PS への適用結果

 

・球状活性炭は繰り返し利用可能

球状活性炭を同一固定床のまま 3 回連続して使用し、各 24 時間運転後のスチレン収率は 75%、 75%、72%でした。使用後には表面への局所的な付着物が観察されたものの、球状形態は概ね維持され、マイクロ波共振挙動にも大きな変化は認められませんでした。

・活性炭表面の触媒作用よりも、マイクロ波吸収・局所加熱が主要な役割

異なる粒径の球状活性炭や酸処理した活性炭を用いても反応性能に大きな差は見られませんでした。また、通常の電気炉加熱では 350℃でのスチレン収率は低く、500℃まで昇温すると 63%まで上昇し、350℃のマイクロ波-球状活性炭系(67%)に近づきました。これらの結果は、PS 分解が主として熱的に進行し、球状活性炭の主要な役割がマイクロ波を吸収して局所的な高温反応場を形成することにあることを支持します。

 

成果の意義

・プラスチックを「廃棄物」から「原料」へ戻す循環型プロセス

PS を燃料として利用するのではなく、再びスチレンモノマーへ戻すことで、ポリマー原料として循環利用するケミカルリサイクルの選択肢を示しました。

・低出力・局所加熱と連続フローの融合

35 W 以下のマイクロ波照射と球状活性炭固定床を組み合わせ、必要な反応領域にエネルギーを集中させる設計です。連続フロー化により、反応器の大型化だけに頼らず、複数反応器を並列化するナンバリングアップも将来的な選択肢となります。

・実廃棄物への展開可能性

食品トレーや発泡 PS 容器でも試薬グレード PS と同程度のスチレン収率が得られました。今後、より多様な実廃棄物、溶媒循環、エネルギー原単位、生成オリゴマーの高付加価値化、再重合との統合などを検討することで、循環型 PS 利用プロセスへの発展が期待されます。

 

社会実装を担う岐阜薬科大学発ベンチャー「株式会社ECEテクノ」
株式会社 ECE テクノは、2025 年 6 月 30 日に設立された岐阜薬科大学初の大学発ベンチャーです。岐阜薬科大学内に本社を置き、「カーボンニュートラルに資する技術の開発とその技術を提供」することを事業としています。同社が掲げる 2 つのコア技術は「メカノケミカル」と「マイクロ波」であり、マイクロ波技術では廃棄プラスチックを高純度な原材料(モノマー)へ戻す資源循環技術の社会実装を目指しています。

 

今回の ChemSusChem 論文で扱った「球状活性炭へのマイクロ波集中を利用した廃棄 PS のモノマー化」は、ECEテクノがコア技術の一つとして掲げるマイクロ波による廃棄プラスチック資源化と直接つながる研究テーマです。大学で得られた反応機構、運転条件、固定床耐久性、実廃棄物適用性などの科学的知見を蓄積することは、将来の装置開発、スケールアップ、企業連携、社会実装に向けた重要な基盤となります。

本論文の筆頭著者である櫻田直也は、岐阜薬科大学アドバンストケミストリー研究室の博士課程学生であると同時に ECE テクノの執行役員を務めています。また、論文著者の井川貴詞教授は同社 CTO、佐治木弘尚教授は同社 CSOとして参画しています。研究者自身が大学での基礎・応用研究とベンチャーでの社会実装を往復しながら技術を育てる体制は、大学発研究シーズを社会課題の解決へ結び付ける新しい産学連携モデルの一つです。

ECEテクノは、技術を「独占」するのではなく「普及」させる姿勢を掲げ、脱炭素社会を共に創る企業・研究機関との連携を進めています。マイクロ波技術については、廃棄プラスチックのモノマー化を事業化候補の一つとして位置付けています。今後、本研究で示した固定床型マイクロ波フロー技術について、実廃棄物への適用範囲拡大、反応器のスケールアップ/ナンバリングアップ、溶媒循環、エネルギー評価、回収スチレンの再重合などを検討し、大学で生まれた技術を地域から社会へ広げていくことを目指します。

ECE テクノにおける社会実装の動き

・2025 年 6 月 30 日
岐阜薬科大学初の大学発ベンチャーとして株式会社 ECE テクノを設立。
・2025 年 9 月
スタートアップに向けた知財アクセラレーション事業(IPAS)に採択。
・2025 年 11 月
第 5 回岐阜テックグランプリで、櫻田直也が「固体触媒を用いたマイクロ波技術によるサーキュラーエコノミー」を発表し、リアルテックファンド賞を受賞。
・2026 年 4 月
広島県カーボンリサイクル関連技術研究開発事業補助金の交付決定。
 
このように、ECE テクノでは大学で創出した研究成果を、知財・事業開発・企業連携へ接続する取り組みを進めています。今回の ChemSusChem 論文および Front Cover 選出は、マイクロ波を活用したプラスチック資源循環技術の学術的発信を強化する成果であり、今後の社会実装に向けた情報発信の面でも重要な位置付けとなります。

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ECE テクノ Web サイト

 

論文情報

  • 雑誌名:ChemSusChem
  • 論文名:Continuous-Flow Conversion of Waste Polystyrene Into Styrene Monomers Utilizing the Microwave-Concentration Effect on Spherical Activated Carbon
  • 著者:Naoya Sakurada, Takanori Kitazono, Madoka Ikawa, Naoki Doi, Takashi Ikawa, Hironao Sajiki
  • DOI番号:10.1002/cssc.71054
  • 掲載情報: ChemSusChem, 2026, 19(18), e71054
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論文 DOI

 

用語解説

・ケミカルリサイクル(Chemical recycling)
廃プラスチックを化学反応によって分解し、モノマーや化学原料へ戻して再利用する方法です。

・マイクロ波加熱(Microwave heating)
マイクロ波を吸収する物質に電磁エネルギーを与えて加熱する方法です。加熱対象や反応部位へエネルギーを集中できる点が特徴です。

・球状活性炭(Carbon beads)
球状の活性炭。本研究ではマイクロ波吸収・局所加熱媒体として利用しました。

・ポリスチレンの解重合(Depolymerization)
高分子であるポリスチレンの炭素骨格を切断し、スチレンなどの低分子化合物へ戻す反応です。

・背圧(Backpressure)
流路の出口側から一定の圧力を加える操作です。本研究では溶媒の局所気化や PS 析出を抑え、安定な連続送液を実現する上で重要でした。

・フロー反応(Continuous-flow reaction)
原料を反応器へ連続的に送り、生成物を連続的に回収する反応方式です。反応条件の精密制御や装置の並列化に適しています。

 

研究グループ・お問い合わせ

岐阜薬科大学 アドバンストケミストリー研究室
〒501-1196 岐阜市大学西 1-25-4 TEL 058-230-8100(代表)
Web: https://gpu-advchem.jp/
X: @ikawa_takashi

株式会社 ECE テクノ
〒501-1196 岐阜県岐阜市大学西 1 丁目 25 番地 4(岐阜薬科大学内)
Web: https://www.ecetechno.com/