岐阜薬科大学

研究概要

生化学研究室 河本 さやか (学部6年生)、五十里 彰 教授らの研究グループは、石川 吉伸 教授(湘南医療大学)、篠田 雄大 研究員(理化学研究所)、遠藤 智史 准教授(岐阜大学)らとの共同研究により、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)プロテアーゼ阻害薬のサキナビル(SQV)が肺腺がん細胞においてタイトジャンクション分子claudin-2CLDN2)の発現を低下させ、抗がん剤抵抗性を改善することを見出しました。本研究成果は202652日に国際学術誌「European Journal of Pharmacology」に掲載されました。

肺腺がんでは、がん細胞同士の接着に関わるCLDN2の発現が上昇しており、がん細胞の増殖促進や抗がん剤抵抗性に寄与することが報告されています。特に三次元スフェロイドモデルでは、CLDN2が細胞間バリアを形成することで抗がん剤の浸透を妨げ、薬剤抵抗性を高めることが知られています。しかし、CLDN2を直接標的とする低分子化合物はこれまで報告されていませんでした。

本研究では、FDA承認薬ライブラリーを用いた構造ベースバーチャルスクリーニングを実施し、CLDN2に結合する候補化合物を探索しました。その結果、HIV治療薬として使用されるSQVが、CLDN2の第2細胞外ループ(ECL2)に高い親和性で結合することが予測されました。さらに、水晶振動子マイクロバランス解析により、SQVがCLDN2タンパク質に結合することが実験的に確認されました(図1)。

20260527_01.png
図1 SQVとCLDN2の結合解析
(A) SQVとCLDN2のドッキングモデル
(B) SQVとCLDN2の水晶振動子マイクロバランス解析

次に、ヒト肺腺がん由来A549細胞およびRERF-LC-MS細胞を用いてSQVの作用を解析しました。その結果、SQVはCLDN2のmRNA発現には影響を与えず、タンパク質発現を選択的に低下させることが明らかとなりました。また、CLDN2の分解促進には、クラスリン依存性エンドサイトーシスおよびリソソーム分解系が関与していることが示されました。さらに、SQVによるCLDN2発現低下作用は可逆的であり、SQV除去後にはCLDN2発現が回復しました。

三次元スフェロイドモデルおよび患者由来オルガノイドを用いた解析では、SQV処理により殺細胞性抗がん剤ドキソルビシン、シスプラチン、SN-38(イリノテカンの活性体)の細胞障害作用が増強されることが明らかとなりました(図2)。SQVは細胞間バリア機能を低下させ、抗がん剤の腫瘍内部への浸透を促進するとともに、酸化ストレス応答因子Nrf2の発現低下を介して薬剤抵抗性を改善すると考えられました。

20260527_02.png

図2 肺腺がんオルガノイドの抗がん剤感受性
(A) ヒト肺腺がん患者由来オルガノイドの可視像
(B) 抗がん剤感受性に対するSQVの効果

本研究成果のポイント・今後期待される成果

本研究により、FDA承認薬であるSQVがCLDN2発現を制御し、肺腺がん細胞の抗がん剤抵抗性を改善する可能性が示されました。特に、既存薬を新たな適応へ展開するドラッグリポジショニング戦略として有望であり、難治性肺腺がんに対する新たな補助療法開発につながることが期待されます。
 今後は、SQVとCLDN2との詳細な結合様式の解明や、in vivo腫瘍モデルを用いた有効性・安全性評価を進めることで、臨床応用に向けた研究展開が期待されます。

研究助成

本研究は、JSPS科研費(19H03373)、AMED橋渡し研究、COMIT創薬シーズ共同研究、双葉電子記念財団、旗影会、小林財団、越山科学技術振興財団、小川科学技術財団、高橋経済産業研究財団、テルモ生命科学振興財団、武田科学振興財団、などの支援を受けて実施されました。

論文情報

雑誌名:European Journal of Pharmacology

論文題目:Downregulation of claudin-2 expression and chemoresistance by saquinavir in human lung adenocarcinoma cells

著者:Sayaka Komoto, Riho Kimura, Yuta Yoshino, Kazushi Morimoto, Takehiro Shinoda, Mikako Shirouzu, Yoshinobu Ishikawa, Toshiyuki Matsunaga, Satoshi Endo, and Akira Ikari

DOI番号:10.1016/j.ejphar.2026.178923