尋常性白斑の表皮基底層で発現低下している膜タンパク質GPNMBの機能の解明
―ヒト表皮細胞では酸化ストレス抵抗性にはNRF2ではなくGPNMBが 寄与し、AKTとWNT/βカテニン経路を介していることを立証―
2025年2月13日
研究教育成果
香粧品健康学寄附講座の西田 那月(2020年度修士修了)、大津 麻里子研究員、水谷 有紀子特任准教授、石塚 麻子研究員、井上 紳太郎特任教授と、山口大学との共同研究成果が、Journal of Biological Chemistry 誌のオンライン版に掲載されました。
研究成果の概要
これまで、香粧品健康学研究室では、大阪大学医学部皮膚科学 片山一朗教授(現 大阪公立大学 特任教授)と共同で、尋常性白斑患者の病変部基底層の表皮細胞(ケラチノサイト、KC)では、膜タンパク質GPNMBを発現していないこと、白斑における中心的なサイトカインであるIFN-γによってGPNMB発現は抑制されること、を見出しています(Biswas他、 Sci Rep. 10: 4930 (2020) https://doi.org/10.1038/s41598-020-61931-1 )。白斑は皮膚基底層のメラニン陽性の色素細胞(メラノサイト、MC)が酸化ストレスなどの様々な要因により、後天的に欠失する自己免疫疾患と考えられてきました。しかし、近年、KCや線維芽細胞などの非免疫細胞が関与し、基底膜やKCと相互作用するのを妨げられて生成する、いわゆる浮遊MC(floating melanocytes)が白斑形成のメカニズムとして着目されています(図)。実際、白斑患者表皮ではH2O2レベルが高く、MCのみならずKCも細胞ダメージを受けていることが組織化学的に観察されています。
今回、H2O2感受性に対するGPNMBの役割を、白斑病態を模した"GPNMBを発現していない(ノックダウンした)ヒトKC"を用いて調べました。その結果、KCではH2O2抵抗性には一般的に抗酸化系として知られるNRF2系は関与せず、GPNMB(シェディングにより生ずる細胞外ドメインも含まれる)が重要なことが分りました。GPNMB発現が低下すると、H2O2刺激で高まる生存シグナルであるPI3K/AKTの活性化が抑制されて細胞死が誘導され、ここには、チオレドキシン相互作用タンパク質(TXNIP)発現増加による抗酸化能の低下とWNT/βカテニン系の抑制が伴うことが明らかになりました。これにより生じたKCのダメージや代謝変化が、浮遊MCの形成に関与している可能性があります。
これらの結果は、白斑患者で認められる表皮層の病態と一致し、更に興味深いことに、GPNMB発現低下は抗腫瘍因子であるTXNIP発現の増加やWNT/βカテニン系の抑制によって、KCの発癌リスクを低下させることが期待できます。実際、白斑患者では、メラニン形成が無いにも関わらず健常皮膚に比べて紫外線などによる発癌リスクが低いことが知られており、紫外線療法が汎用されている白斑治療において、発癌リスクとGPNMBの関係解明は今後の更なる研究課題です。
本研究成果のポイント
・ヒト表皮細胞では、過酸化水素誘導の酸化ストレスに対しNRF2系は機能せず、GPNMBが抵抗性に寄与している。
・GPNMBは、PI3K/AKTの活性化や、チオレドキシン相互作用タンパク質(TXNIP)発現抑制による抗酸化ストレスの抑制、WNT/βカテニン系の増強により、KCの酸化ストレスに対する抵抗性と細胞生存に関与している。
・GPNMBの発現低下は、KCの発癌リスクの低下に寄与している可能性がある。
論文情報
雑誌名:Journal of Biological Chemistry
論文名:The glycoprotein GPNMB protects against oxidative stress through enhanced PI3K/AKT signaling in epidermal keratinocytes.
著者:Natsuki Nishida, Mariko Otsu, Yukiko Mizutani, Asako Ishitsuka, Yoichi Mizukami , Shintaro Inoue.
DOI番号:https://doi.org/10.1016/j.jbc.2025.108299
研究室HP:https://koushouhinlabo.wixsite.com/gpu-koushouhin
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