概要
不均一系金属触媒は、空気中での安定性が高く、溶媒に溶解せずに機能することが特徴で、ろ過により容易に反応系から分離できるため、生成物中の金属残留を低減できます。さらに、再利用が簡便で、グリーンケミストリーやプロセスケミストリーに適した触媒として広く利用されています。こうした触媒を充填したカートリッジに基質溶液を送液するだけで、連続的に化合物を合成する「フロー式反応」は、バッチ法に比べて設置スペースの制約が少なく、流速や温度などのパラメータ制御が容易である点から、操作性や再現性の向上が期待されています。少量の基質が大量の触媒と効率的に接触するため、反応効率も高く、新しい合成プロセスとして注目されています。
固体触媒充填式連続フロー反応では、堅牢で高活性の不均一系金属触媒の開発が求められています。我々は酢酸パラジウム [Pd(OAc)2] をPd源、メタノールを溶媒兼還元剤とした含浸式Pd(0)担持法を確立し、様々な不均一系Pd触媒を開発・上市してきました。しかしPdと担体の相互作用が弱いと、Pd粒子が担体表面に吸着することなく析出・沈殿するという課題があります。
本研究では、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム [Pd(PPh3)4] を加熱酸化処理して得られた灰色粉末 (Pd-80) を用い、cordierite粉末 (2MgO·2Al2O3·5SiO2) とともにCHCl3中で撹拌することで、Pd/cordierite触媒を調製することに成功しました。Pd-80は、比表面積が小さいケイ素、SiC、有機ポリマーなど、担体の構成元素や表面の状態に依存せずPd種を均一に担持することが可能です。
Pd/cordieriteを充填した触媒カートリッジをフロー式接触還元に適用した結果、長時間にわたり高い触媒活性を示し、例えばニトロベンゼン誘導体 (1) の接触還元では、150時間以上90%を下回ることなくアニリン誘導体 (2) へと変換できました。最終的に約35 gのアミンが得られ、パラジウムのリーチングは全く確認されませんでした。触媒回転数 (TON) は61,090、触媒回転率 (TOF) は231毎時、空時数量 (STY) は240に達し、Pd/cordieriteの物理的・化学的な堅牢性と高い触媒活性が実用域で実証されました。
今回、私たちは様々な無機および有機材料にパラジウムを容易に担持できる新たなパラジウム前駆体、パラジウムエイティ(Pd-80)を開発しました。この前駆体は今後の触媒開発において非常に有望で、持続可能な触媒プロセスへの貢献が期待されます。さらに、開発されたPd/cordieriteは優れた官能基選択的接触還元触媒として長時間の連続フロー反応に対応でき、エネルギーロスの低減やパラジウム使用量の削減が可能な触媒として、工業的な応用でも高い期待が寄せられます。
本研究成果のポイント
- 様々な無機および有機材料にパラジウムを容易に担持できる新たなパラジウム前駆体、パラジウムエイティを開発した。今後の触媒開発において非常に有望な前駆体であることが強く示され、持続可能な触媒プロセスへの貢献が期待される。
- Pd-80で調製したPd/cordierite触媒は、優れた官能基選択的接触還元触媒として機能し、長時間連続フロー反応も可能であるため、エネルギーロスの低減やパラジウム使用量の削減が可能な触媒として、工業的にも期待される。
論文情報
- 雑誌名:ChemSusChem
- 論文名:Stable and Versatile Pd Precursors for the Preparation of Robust Pd Catalysts under Continuous-Flow
- 著者:Naoya Sakurada, Kwihwan Kobayashi, Yuka Abe, Kosuke Niwa, Takashi Yokoyama, Tsuyoshi Yamada, Takashi Ikawa, Hironao Sajiki
- DOI番号:https://doi.org/10.1002/cssc.202401859
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