佐治木弘尚教授は、岐阜薬科大学・大学院博士後期課程中退後、国内の製薬企業勤務を経た後、約6年間米国の大学と製薬企業で研究実績を積み、1995年に岐阜薬科大学に赴任しました。以降、研究室のスタッフ・学生・共同研究者と一丸となって、「機能性不均一系白金族触媒に関する研究」を基盤として、触媒開発と反応への応用、反応機構解明研究に精力的に取り組み、有機合成化学・プロセス化学・創薬化学・触媒化学・環境化学にまたがる融合分野を研究フィールドとして研究に取り組み、以下(1)~(3)に示す様々な成果を実用化につなげ、社会に還元してきました。
(1) 有機合成で実用的に使用されている固体金属触媒を、化学修飾したり、担体を変更して、反応選択性の高い多種の接触還元触媒を開発し、その多くを試薬として上市しました。
(2) 既存の固体白金族触媒が潜在的に保有する未知の触媒活性を掘り起こし、新たに、「酸化反応」、「炭素-炭素・炭素-窒素結合形成反応」、「芳香核還元反応」、「重水素標識(H-D交換)反応」、「芳香族ハロゲンの脱離反応」、「炭素-炭素結合開裂反応」などの触媒として適用しまた。特に「芳香族ハロゲンの脱離反応」は社会的ニーズが高く、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)マッチングファンドの支援を受けてPCBやダイオキシン類の常温常圧での分解法へと展開し、薬学基礎研究を環境汚染物質対策の実用化研究へと展開しました。また、「重水素標識反応」は、重水素化医薬品や重水素化ポリマー(光ファイバー、液晶や有機ELなどへの応用)を始めとする、機能性物質の重水素標識法へと展開し、富士フイルム和光純薬(株)の受託合成事業の一部として実用化されています。
(3) 連続フロー合成装置、マイクロ波照射型フロー合成装置やボールミル(ボールの衝突エネルギーを有機反応に利用する)などのデバイスと触媒反応を組み合わせて、作業効率やエネルギー効率を考慮した新しい合成手法の開発や、水や有機化合物から水素ガスを効率良く取り出す方法の開発など、カーボンニュートラルや水素社会への貢献を目指した研究も展開しています。特に、水から水素を取り出す反応については、大手機械メーカーの支援により、本学に「次世代エネルギー化学共同研究講座」を設置して実用化を推進することを予定しています。
これらの成果は、270報を超える学術論文として著明な学術誌に報告されるとともに、多くの研究者により引用されています。特許された発明は国際・外国出願を含めて108件に及び、多くの研究成果が実用的で産業貢献度が高い点に特徴があります。
学会や地域社会に対する貢献度も高く、日本プロセス化学会会長(現名誉会長)や岐阜市環境審議会会長をはじめとして、様々な委員や役員を務めています岐阜新聞令和6年1月30日付掲載.pdf岐阜新聞令和6年2月11日付掲載-.pdf。