概要

薬効解析学研究室 安田 啓人 学部生 (B5)、嶋澤 雅光 教授、原 英彰 学長らの研究グループは、ストレス応答タンパク質転写因子activating transcription factor 4 (ATF4) が滲出型加齢黄斑変性の主要病態である脈絡膜血管新生の進展に関与することを見出しました。本研究成果は2021818日に国際学術誌「International Journal of Molecular Sciences」に掲載されました。

脈絡膜は網膜の外側に存在する血管に富んだ組織であり、網膜に酸素や栄養分を供給する役割を担っています。滲出型加齢黄斑変性では、この脈絡膜から異常血管が出現し (脈絡膜血管新生)、網膜が傷害され、その結果、視力低下や視野欠損などが引き起こされます。現在、滲出型加齢黄斑変性に対して抗血管内皮増殖因子 (vascular endothelial growth factor : VEGF) 療法が第一選択となっていますが、根治治療の確立には至っておりません。

本研究では、様々な病態関連因子の転写を制御する転写因子の中で、加齢等に起因するストレス状況下において発現が増大するATF4に着目しました。ATF4が骨や腫瘍組織の血管新生を促進させること、加えて、ATF4は網膜血管新生を主徴とする増殖糖尿病網膜症患者の眼内で高値を示すことが過去に報告されています。しかし、脈絡膜血管新生病態におけるATF4の機能は明らかではありませんでした。そこで、実験的にATF4発現抑制剤として用いられる低分子化合物のISRIBを用いて、ATF4の発現を抑制した際の脈絡膜血管新生に及ぼす影響を検討しました。

レーザー誘発脈絡膜血管新生モデルマウスを用いてATF4の局在を調べたところ、脈絡膜血管新生を構成する血管内皮細胞においてATF4が強く発現していることを明らかにしました (1)

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さらに、本モデルマウスにISRIBを投与した結果、マウス眼内で生じた脈絡膜血管新生の面積が抑制され (2A)、且つ、強力な血管新生促進因子であるVEGFの発現が顕著に抑制されることが示されました (2B)

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最後に血管内皮培養細胞系を用いた実験系において、ISRIBVEGFによって誘導される細胞増殖及び細胞遊走(細胞が他の場所へ移動すること)を有意に抑制しました(3)。図13は以下の論文情報に示したInternational Journal of Molecular Sciencesからの改変引用。

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今回の研究成果により、脈絡膜血管新生の形成には血管内皮細胞におけるATF4の発現増大が関与することが示唆されました。今後、滲出型加齢黄斑変性治療において、ATF4が有力な治療標的の候補になることが期待されます。

本研究成果のポイント

  • ATF4は滲出型加齢黄斑変性における脈絡膜血管新生形成の制御因子として働くことが示唆されました。

  • ISRIBなどATF4阻害剤が滲出型加齢黄斑変性の治療薬になり得る可能性が示されました。

論文情報

  • 雑誌名:International Journal of Molecular Sciences
  • 論文名:Role of Activating Transcription Factor 4 in Murine Choroidal Neovascularization Model
  • 著者:Hiroto Yasuda, Miruto Tanaka, Anri Nishinaka, Shinsuke Nakamura, Masamitsu Shimazawa, and Hideaki Hara
  • DOI番号10.3390/ijms22168890

研究室HP

薬効解析学研究室 https://www.gifu-pu.ac.jp/lab/seitaikinou/