2.核酸損傷の高感度分析
核酸損傷の高感度分析に関する研究
DNAは生体内及び外来活性物質と反応し、DNA損傷体を生じます。例えば、飲酒や喫煙によるアルデヒド由来のEt-GuaやCPr-Guaのグアニン損傷体が知られています。DNA損傷体は発がんや細胞死の一因と考えられており、これらを検出することは発がんリスクを直接知ることを意味します。しかしこの損傷体を分析する上での問題として、損傷体は一般に、正常DNA106から109個に数個の割合で存在する極めて微量な成分であること、また、血液1ml程度の非常に少ない試料量でも分析可能な方法が望まれます。
本研究室では、損傷体分析にLC/MSが適していると考え、初期の検討で、アセトアルデヒド共存下で培養したヒト由来細胞DNA中に、LC/MSを用いて、初めてCPr-Gua の発現を確認しております。
その後、実際の1億に数個というレベルの損傷体を発がんリスクマーカーとして定量可能にするため、高感度の期待できるヌクレオシド体でのLC-ESI-MS/MS分析を想定して、損傷ヌクレオシド体を得る酵素反応、膨大な正常塩基を除去するハイスループット前処理用デバイスの開発、ESI効率向上によるMS感度向上、定量分析のための同位体内部標準の調製を行ってきました。その結果、検診で採取可能なヒト血液1mLから得られるDNA中の損傷体分析ができる感度を持つ、実用的な分析プロトコールを作成しました。また、損傷塩基形態での検出、オンライン濃縮CE-MS法の開発など、さらなる高感度化を目指した研究を行っています。また、これらの開発した手法を用いて、様々な、モデル生体試料(ウシ、ブタ肝臓、ALDH2 KOマウスの組織など)の分析を行っています。