研 究 紹 介

研究紹介

研究概要

1.キャピラリー電気泳動による新機能分析法構築

 キャピラリー電気泳動法(CE)は電気泳動というHPLCとは相補的な分離モードに加え、高い分解能と使用溶媒量が極端に少ない低負荷性という大きな利点を持ちます。

 ところで、CEは均一な溶液相だけからなる、すなわち、分析者が、様々な相互作用試薬を泳動液に溶解し、そこで起こる相互作用を分離モードとして利用できる高い構築性をもつ分離システムです。そして、均一な自由溶液でおこる相互作用及び分離結果は、平衡論、速度論によっての数学的な表現が可能であり、分離系の設計性に優れたプラットフォームです。

 CEが生まれてから、様々な分離モードの開発、CEの利点を活用した応用、生体分子をはじめとする重要分子の分析への応用が報告されてきました。本研究室でも、水素結合性相互作用の分離モードとしての導入、完全非水分離系の開発と応用、疑似固定相を逐次させるマルチモードの開発、様々な応用を報告し、現在も基礎と応用両面からの研究を行っています。

2.核酸損傷の高感度分析に関する研究

 DNAは生体内及び外来活性物質と反応し、DNA損傷体を生じます。例えば、飲酒や喫煙によるアルデヒド由来のEt-GuaCPr-Guaのグアニン損傷体が知られています。DNA損傷体は発がんや細胞死の一因と考えられており、これらを検出することは発がんリスクを直接知ることを意味します。しかしこの損傷体を分析する上での問題として、損傷体は一般に、正常DNA10から10個に数個の割合で存在する極めて微量な成分であること、また、血液1ml程度の非常に少ない試料量でも分析可能な方法が望まれます。

 本研究室では、損傷体分析にLC/MSが適していると考え、初期の検討で、アセトアルデヒド共存下で培養したヒト由来細胞DNA中に、LC/MSを用いて、初めてCPr-Gua の発現を確認しております。

 その後、実際の1億に数個というレベルの損傷体を発がんリスクマーカーとして定量可能にするため、高感度の期待できるヌクレオシド体でのLC-ESI-MS/MS分析を想定して、損傷ヌクレオシド体を得る酵素反応、膨大な正常塩基を除去するハイスループット前処理用デバイスの開発、ESI効率向上によるMS感度向上、定量分析のための同位体内部標準の調製を行ってきました。その結果、検診で採取可能なヒト血液1mLから得られるDNA中の損傷体分析ができる感度を持つ、実用的な分析プロトコールを作成しました。また、損傷塩基形態での検出、オンライン濃縮CE-MS法の開発など、さらなる高感度化を目指した研究を行っています。また、これらの開発した手法を用いて、様々な、モデル生体試料(ウシ、ブタ肝臓、ALDH2 KOマウスの組織など)の分析を行っています。

3.ジスルフィド基(-S-S-)に関する基礎研究

 ジスルフィド基は、生体内でシスチンの側鎖として、色々な役割を持っています。特にアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患に深く関わっている可能性があり、なぜ生体内ジスルフィド基が色々な役割を持てるのかという謎を解けば、神経変性疾患の創薬へとつながります。そこで、謎解明のために分子を合成したり、分子軌道の状態を知るため量子化学計算したり、電子の状態を知るため電気化学測定したり、実際に生体内でどのような動向をしめすのか細胞実験などを行っています。