6回生の須藤さんを筆頭著者とする論文がFrontiers in Immunologyに受理されました

6回生の須藤さんを筆頭著者とする論文が受理されました

Haruka Sudo, Nagisa Tokunoh, Ayato Tsujii, Sarana Kawashima, Yuta Hayakawa, Hiroki Fukushima, Keita Takahashi, Tetsuo Koshizuka and Naoki Inoue.
The adjuvant effect of bacterium-like particles (BLPs) depends on the route of administration. Frontiers in Immunology, 2023 Jan  DOI:10.3389/fimmu.2023.1082273 

乳酸菌から作製した新規粘膜アジュバント「細菌様粒子」を使用したワクチン系の最適な投与経路の解明

研究背景

経口や経鼻などの粘膜組織を介した経路で投与する『粘膜ワクチン』は、多くの病原体の侵入門戸である呼吸器粘膜や消化管粘膜などの粘膜組織に防御免疫(これを粘膜免疫と呼びます)を誘導できるワクチン系であり、従来の注射によるワクチン接種(用語解説1参照)に代わるワクチン接種方法として注目されています。

乳酸菌の細胞壁のみで形成される細菌様粒子(Bacterium-like particleBLP、用語2解説参照)は、経口ワクチンあるいは経鼻ワクチンのアジュバント(用語3解説参照)として研究されてきましたが、アジュバント効果が投与経路によって異なるかは知られていませんでした。

BLPのアジュバント効果が最も高い投与経路を明らかにすることは、BLPアジュバントを用いたワクチンがどのような感染症に対するワクチンに応用できるかを考える上で有用です。そこで岐阜薬科大学感染制御学研究室では、マウスを用いた実験で、BLPアジュバントの効果を経口投与と経鼻投与で詳細に比較しました。

研究結果の概要

本研究では、マウスの病原細菌であるCitrobacter rodentium(用語解説4参照)の病原因子である『Tir』をモデル抗原として使用しました。経口投与と経鼻投与で誘導される抗体応答やT細胞応答を比較した結果、BLPアジュバントを用いた粘膜ワクチンは、経鼻投与の方が経口投与よりも遥かに優れた免疫原性を示すことが明らかになりました。BLPアジュバントを用いたワクチンを経鼻投与したマウスでは、全身性のIgG抗体産生に加え、呼吸器粘膜、さらに消化管粘膜でのIgA抗体産生が誘導されることが明らかになりました。

この結果から、BLPアジュバントワクチンは、呼吸器感染症や消化管感染症に対するワクチンに応用できる可能性が示唆されました。

また、BLPアジュバントを使用したワクチンを経鼻投与したマウスでは、Th17(用語解説5参照)を主体とするT細胞応答を誘導するなど、従来の注射ワクチンアジュバントとは異なるタイプの免疫応答が誘導されることが明らかになりました。

さらに、投与経路による免疫誘導能の違いが何に起因するかを調べたところ、経鼻投与では経口投与の約1,000倍量のBLPとワクチン抗原が粘膜関連リンパ組織に到達すること、結果として、経鼻投与した場合のみ粘膜関連リンパ組織で強力な自然免疫系の活性化が起こる事が明らかになりました。

本研究成果は、2023119日付けで学術雑誌『Frontiers in Immunology』に掲載されました。

本研究成果のポイント

  • 粘膜ワクチン系は、粘膜免疫を誘導することで病原体の体内への侵入自体を阻止できる可能性のあるワクチン系として開発が期待されています。
  • 乳酸菌から作製したBLPアジュバントは、経鼻投与した場合に強力なアジュバントとして機能することが明らかになりました。
  • BLPアジュバントワクチンの経鼻投与により、全身性および粘膜組織(呼吸器、消化管)での抗体産生を誘導できることが明らかになりました。
  • 投与経路によるBLPのアジュバント効果の違いは、粘膜関連リンパ組織に到達するBLPおよびワクチン抗原の量の違いに起因すると考えられました。
  • 以上の成果は、BLPアジュバントを利用した呼吸器感染症ワクチンや消化管感染症ワクチンの開発に寄与すると期待されます。

本研究は、武田科学振興財団(研究代表者:髙橋圭太)、東海乳酸菌研究会(研究代表者:井上直樹)、科研費若手B、基盤C(研究代表者:髙橋圭太)の支援を受けて行ったものです。

用語解説

  1. 注射ワクチン
    注射によって接種するワクチンの総称です。現在本邦で使用されているワクチンは全て注射ワクチンです(ロタウイルスワクチンを除く)。注射ワクチンは、体内に侵入してきた病原体の排除に働く血液中の抗体やT細胞を主体とする全身性免疫を誘導しますが、粘膜表面に存在する病原体への防御を担う粘膜免疫はほとんど誘導できません。
  2. 細菌様粒子(Bacterium-like particleBLP
    乳酸菌を硫酸などの強酸中で煮沸すると、タンパク質や核酸などを含まない細胞壁ペプチドグリカン(糖鎖がペプチドによって架橋された構造)のみからなる直径1 μm程の微粒子(細菌様粒子、BLP)ができます。ペプチドグリカンに結合する性質のあるタンパク質ドメイン(LysM)と融合させたワクチン抗原を、非共有結合によりBLPに結合させることができます(1個のBLPは、最大10,000分子の抗原とLysMの融合タンパク質と結合します)。2006年にオランダの研究グループが粘膜ワクチンアジュバントへの応用を初めて報告して以来、数多くの粘膜ワクチンのアジュバントとしての研究が報告されています。
  3. アジュバント
    ワクチンの効果を高める物質の総称です。主に自然免疫系を活性化する事により、ワクチン成分に対する獲得免疫応答(抗体産生やT細胞応答)の活性化を促します。注射ワクチンのアジュバントとして一般的に使用されているアルミニウム塩は、粘膜ワクチンのアジュバントとしての効果が乏しいため、安全かつ強力に作用する粘膜ワクチン用アジュバントの開発が望まれています。
  4. Citrobacter rodentium
    マウスに経口的に感染し、大腸上皮細胞に接着して増殖することで、大腸炎や下痢を引き起こす病原細菌です。ヒトの腸管出血性大腸菌(O-157など)などと同様の感染メカニズムを有するため、モデル細菌として様々な研究で使用されています。本研究でモデル抗原として用いたTirはCitrobacter rodentiumが宿主の大腸上皮細胞に結合し、増殖するために必須の分子です。
  5. Th17
    ヘルパーT細胞の一種。IL-17などのサイトカインを産生し、炎症や粘膜バリアの増強を誘導します。多様な病原体に対する防御に働くことが知られています。

雑誌名Frontiers in Immunology

論文名The adjuvant effect of bacteriumlike particles depends on the route of administration

著者Haruka Sudo, Nagisa Tokunoh, Ayato Tsujii, Sarana Kawashima, Yuta Hayakawa, Hiroki Fukushima, Keita Takahashi, Tetsuo Koshizuka, Naoki Inoue

DOI番号10.3389/fimmu.2023.1082273