Research Contents

Plasma- and Polymer chemistry for treatment of unmet medical needs

アンメットメディカルニーズ(がん等の難治性疾患)に貢献する高分子化学

当研究室では、難治がんの選択的な治療を目指した薬物送達システム(DDS)を主軸とした研究を展開しております。

そのためには、難治がんの特徴を理解し、生体への投与が可能かつ難治がんに選択的に移行する微粒子を設計する必要があります。さらに、抗がん剤や核酸医薬等を搭載した微粒子が、実際にがん組織へ移行すること、そして、がん細胞内で崩壊し抗がん剤や核酸医薬ががんに効果を示すことを実証する必要があります。

体内動態.jpg

主な研究テーマ

1)固相重合技術による革新的機能性高分子の合成

当研究室では、溶媒ならびに触媒を一切用いることなく、ヒトと環境にやさしいグリーンファーマシーに根差した固相重合技術によって、抗がん剤や核酸を内包することの可能な共重合体を合成しています。

高分子の合成・評価・分析、そしてがん治療への応用研究に携わることは、抗体医薬(高分子)が医療用医薬品市場の40%を占める今日において、製薬企業や臨床の現場において必ず役立ちます。

固相重合技術.jpg

2)天然高分子の利活用による難治がん治療に向けた微粒子の開発

自然界で産生される高分子は、分子量を調整することでヒトに安全に投与できるものがあります。例えば、自然界の乳酸菌によって産生される多糖類のデキストランは、ヒトの血清と同様の浸透圧や粘性を示すことから、人工血清(医療用医薬品)として用いられております。

そこで、当研究室では、デキストランの分子量を制御すると同時に、抗がん剤を修飾した疎水性高分子鎖をデキストランに導入する技術を開発しました。得られた共重合体は、水溶液中で会合するため、ヒトの血液中ではデキストランと同様に振る舞い、(血液循環の延長によってがん組織への移行後)がん細胞へ取り込まれ、がん細胞内で効率的に抗がん剤が放出されることでがん治療に役立つことを見出しました。

dextran nanoparticle.jpg

3)微小温度変化によりがん細胞へ内在化する生体適合性ボトルブラシの開発

血液中では生体適合性成分として振る舞い、がん組織への移行後、ピンポイントで患部を冷却することで、僅かな温度変化に応答して相転移を起こす分子を当研究室では開発しています。

がん患部での相転移によって、分子は疎水化するため、がん細胞に吸着することでがん細胞死を惹起する、あるいはがん細胞内への取り込みが亢進することが期待できます。

この研究成果は、抗がん剤や核酸医薬フリーな革新的がん治療を生み出せる可能性、そして、細胞内へ取り込まれない(がん細胞内抗原を標的とした)抗体の細胞内デリバリーに寄与する可能性を秘めております。

bottlebrush.jpg

【がん組織への選択的な移行が可能となる微粒子の性質】

がん血管は、炎症用の血管ががん組織へとバイパスされており、その血管壁には 200 nm 前後の間隙が生じている。したがって、粒子サイズが 200 nm 未満の生体適合性*を有する微粒子は、血中投与されると、(正常な血管壁はタイトであるために)正常組織には移行しにくく、がん組織へ選択的に移行しやすい特長をもつ。さらには、がん組織はリンパ系が未発達であるために、移行した微粒子が排除されにくく、滞留しやすい。

*生体適合性:血中成分(タンパク質や免疫細胞)との相互作用が抑制された性質を表す。ただし、生体適合性が高い化合物はいかなる物質とも相互作用しにくいため、がん組織へ移行できたとしてもがん細胞との相互作用も低いことから、抗がん剤をがん細胞内へ送達し難いジレンマに陥りやすい。

EPR effect.jpg

上記のがんの特長は、がん組織における微粒子の漏れ易さと滞留のし易さを表す、Enhanced Permeability and Retention (EPR) 効果として知られている。今やEPR効果は、がん治療を目的とした DDS の理論的な支柱として考えられている。

【膵臓がんの性質】

日本における 5 年生存率が未だ 10% 未満であり、症状の遅延に伴い早期発見・治療が困難である膵臓がんは、難治性固形がんとして知られる。膵臓がんは、他の固形がんとは病変部位が異なり、膵がん細胞によるヒアルロン酸や膵星細胞によるコラーゲンの発現が亢進しており、膵がん細胞の周囲にそれらの堆積物である細胞外マトリックスが存在している。細胞外マトリックスや制御性T細胞・腫瘍関連マクロファージは、膵がん組織へ移行してきた抗がん剤を内包する微粒子やキラーT細胞等のバリアーとして働き、膵がん細胞への攻撃を阻んでいる。

膵がん.jpg

しかし、粒子サイズを 10~30 nm に調整した微粒子であれば、細胞外マトリックスを潜り抜け膵がん細胞にアプローチできる可能性がある。さらに細胞外マトリックスの分解酵素を膵がん組織へ送達できれば、抗がん剤を内包した微粒子の移行性や免疫細胞によるがん治療を改善できると考えられる。

以上の背景に基づき、当研究グループでは、実際にがん細胞を用いて、がん細胞にだけ取り込まれる(正常細胞には取り込まれない)微粒子を基盤とした医薬品の開発を目指しています。

Plasma-assisted Fabrication of Phospholipid Layer onto Polymer Surface and its Application

低温プラズマを利用した高分子基盤へのリン脂質自己組織化膜の構築とその応用

当研究室では、低温プラズマ照射により架橋の生じる高分子基盤内に、疎水性分子を修飾した高分子を導入することで、細胞膜の構成成分であるホスファチジルコリンの疎水性相互作用に基づいた自己組織化膜を構築しています。

開発した自己組織化膜は、抗体や脂肪酸等の生体分子の導入により生体膜を模倣した構造を持ち、流動性を示すことも明らかにしています。また、自己組織化膜を支持する高分子基盤は、成形性に優れた低密度ポリエチレン製であることから、再利用可能なバイオデバイスやカテーテルへの応用が期待されます。

近年では、自己組織化膜の平面構造を活かし、流動性ある膜表面の分子同士を架橋することで、異方性の形態を有するナノフィルム開発を行っており、その薬物送達システム (DDS) への応用を目指しています。

図2.jpg