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2. 新規「重水素(D)標識化法」の開発と応用

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  1. Pd/C触媒品質のSupplier-dependentなばらつき
  2. Pd/C (Pt/C)触媒を用いた重水素標識化法
  3. Pd/C-D2OによるH2-D2交換反応
  4. ベンジル位選択的H-D交換反応における反応機構
  5. 多重重水素標識医薬品の生物活性

2-2. Pd/C (Pt/C)触媒を用いた重水素標識化法

 

 水素(H)の同位体である重水素(D)で標識された化合物は、

  ①薬物の生体内動態の追跡

  ②化学反応機構の解明

  ③タンパク質やペプチドの高次構造解析

  ④光ファイバー原料

など幅広く利用される物質であり、重水素標識化合物の簡便な合成法が開発できれば極めて利用価値が高いものとなります。

 私たちの研究室では、少量の水素ガス存在下、不均一系触媒であるPd/C触媒を用い、重水 (D2O) 中室温下撹拌することで、ベンジル位選択的にDが導入されることを見いだしました(Scheme 1)。 さらに、加熱条件下反応を行ったところ、ベンジル位だけでなく不活性であるアルキル炭素上でも効率的に重水素化が進行することが明らかとなりました (Scheme 2)。

  この方法は、様々な化合物にも適用可能であり、アミノ酸や核酸、医薬品などの重水素標識体を容易に調製することができる実用的に優れた手法であります。また、本法は重水素源として最も安価なD2Oを利用した直接的重水素化法であり、中性条件下、特別な操作や反応装置を使用せずに行うことが可能です。 さらに回収・再利用可能な不均一系触媒を用いているため、工業的応用も十分期待される手法です。

Pd/C (Pt/C)触媒を用いた重水素標識化法

 

2-3. Pd/C-D2OによるH2-D2交換反応

 水素には3種類の同位体が存在します。同位体とは原子番号が等しく、質量数が異なる核種です。 水素(H)は質量数1であり、その他は質量数2の重水素(D)と質量数3のトリチウム(T)です。重水素は安定な非放射性元素で、重水(D2O)として水道水や体内にも約150 ppm存在しています。

 有機化合物の水素を重水素に置き換えると、1H NMRやMassスペクトルが変化するため、これらの化合物は体内の薬物動態研究や環境ホルモンの測定など様々な分野で利用されています。 また、重水素ガスは前述の重水素標識体合成の際の重水素源や原子炉の減速材としての利用、さらに最近では次世代核融合炉による発電に関する研究ではトリチウムと共に燃料として利用する研究が進んでいます。 しかしながら、重水素ガスは膨大な電気エネルギーを費やし、重水(D2O)の電気分解で製造されるため、非常に高価です。 さらに、原子炉用材料や戦略物質として重要であるため、輸出規制されているなど、実験室において手軽に利用できる試薬ではないのが現状です。

 私たちはH2ガスを満たした密封フラスコ中で、Pd/C触媒と少量の重水を室温下、撹拌するだけで、系内のH2ガスをほぼ完全にD2ガスに変換する方法を開発しました(Scheme 1)。 さらに、重水素ガスを発生させた後に、反応容器内に還元性官能基を有する基質を添加することで、接触重水素化反応が進行し、one-potで重水素標識化合物を合成する手法の開発にも成功しています(Scheme 2)。 本法は、特別な反応装置を必要とせず、安価で操作も簡単であることから、実験室規模で手軽に重水素ガスを調製し、重水素標識化合物を合成することができます。さらに、今後は工業化を視野に入れたより大量スケールへの適用も期待されます。

Pd/C-D2OによるH2-D2交換反応

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