芳香族塩素系環境汚染物質としてはPCB、DDT、ダイオキシンがよく知られています。
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は水に溶けにくく、酸素や熱によっても分解されにくいという優れた物性から、トランスやコンデンサ用の絶縁油、熱媒体、潤滑油、感圧複写紙などとして広く使用されてきました。しかし、PCB廃棄物は環境中で分解されにくいため、強い毒性や体内での蓄積性、内分泌撹乱物質(環境ホルモン)としての地球規模での汚染が問題となり、1972年に製造・輸入・新規使用が全面的に禁止されました(化審法)。しかしその安定性がゆえに分解・無毒化が困難であるため、使用済みPCBは各事業所ごとに保管が義務付けられていますが、30年以上が経過し、保管コストのみならず保管管理の点でも問題が多く不法投棄や漏出などが社会問題化しています。
ストックホルム条約加盟国である日本は2016年までにPCBの廃棄を終了する義務があるため、2001年にPCB廃棄物適正処理特別措置法を制定しました。これに基づき拠点広域処理施設の整備を行い、全国5つの拠点で高濃度PCB廃棄物の処理事業が開始されています。PCB廃棄物の処理を行うには廃棄物処理法の規定により国が認可した技術によって処理することと定められていますが、いずれの方法も、高温・高圧・強アルカリ等ドラスティックな条件を必要とするため、安全性の確保や社会的受容性の獲得が問題となっています。
分解方法 | 温度 | 圧力 | 問題点 |
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高温燃焼法 | 高温 | ダイオキシン発生の懸念があり装置運転が困難 | |
脱塩素化分解法 | 高温 | 危険物指定の薬品を多く使用するので、作業に危険性が伴う | |
水熱酸化分解法 | 高温 | 高圧 | 高温・高圧反応であり、装置に高い耐久性が必要 |
還元熱化学分解法 | 高温 | PCBを気化させるので漏出の危険大 | |
光分解法 | 60℃ | 光分解法だけではPCBの完全無毒化は困難 |
DDTはPCBと同様に化学的に安定な環境汚染物質です。かつて日本では殺虫性農薬として大量に使用されていましたが、1972年の化審法により製造・使用が全面禁止となり、 大量に残った在庫は各都道府県ごとにドラム缶に詰めて土中埋没されています。しかし、長期の保管によるドラム缶の腐食などに基づく漏出等が懸念されています。
ダイオキシンは焼却施設の焼却灰や劣化PCB中に、全く意図せずに生成した汚染物質ですが、人工物質の中では最も強い毒性を有しています。近年、工場跡地や焼却施設周辺並びに廃棄物不法投棄場周辺でダイオキシン汚染土壌が見つかり社会問題化しています。
芳香族塩素系環境汚染物質はこのような様々な問題を有しており、これらの無毒化処理における穏和で効率的かつ簡便な手法の開発が強く望まれています。
当研究室では「芳香族塩素化合物の脱塩素化反応」の開発に成功しました。この基本原理は「不均一系触媒であるパラジウム-炭素(Pd/C)を用いた接触還元条件下トリエチルアミンを共存させると、芳香族塩素の還元的脱離反応が極めて選択的かつ強力な加速効果を受け、常温・常圧・短時間で脱塩素化が完結する」ところにあります。本反応ではトリエチルアミンから塩素を有する芳香環への一電子移動が、Pd/Cにより極めてスムーズに進行するため容易に進行します。
芳香族塩素の還元的脱塩素化反応 |
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Dechlorination of Aromatic Chlorides |
Sajiki, H.; Kume, A.; Hattori, K.; Hirota, K. Tetrahedron Lett. 2002, 43, 7247. Sajiki, H.; Kume, A.; Hattori, K.; Nagase, H.; Hirota, K. Tetrahedron Lett. 2002, 43, 7251. Monguchi, Y.; Kume, A.; Hattori, K.; Maegawa, T.; Sajiki, H. Tetrahedron 2006, 62, 7926. Monguchi, Y.; Kume, A.; Sajiki, H. Tetrahedron 2006, 62, 8384. Kume, K.; Monguchi, Y.; Hattori, K.; Nagase, H.; Sajiki, H. Appl. Catal. B Environ. 2008, 81, 274. |
本法により、穏和な条件下(常温・常圧・短時間)でのPCB等芳香族塩素系環境汚染物質の分解無毒化を行うことが可能になりました。
本法は固体触媒を利用するため、取り扱いが容易で、有機溶剤を使用することなく、混合物をろ過するだけで触媒の分離ができ、特別な装置を使用する必要もありません。また分解に使用する薬品の回収、再利用も可能です。さらに、分解により生成するビフェニルやトリエチルアミン塩酸塩も高純度に得られることから、廃棄物として処理する以外に再利用も考えられます。 これにより環境負荷が低く(グリーンケミストリー)、かつコストパフォーマンスに優れた循環型システムを構築することが可能になりました。
現在、独立行政法人新エネルギー・総合技術開発機構の助成(平成20-21年度NEDOマッチングファンド(平成20年度大学発事業創出実用化研究開発事業費助成金<低炭素研究開発>)を受け、「難分解性環境汚染物質の無害化処理技術の開発」として実用化に向け研究を進めています。
芳香族塩素の還元的脱塩素化反応 |
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岐阜市環境指導課の立ち会いの下抜油した本学で保有していたPCB含有コンデンサー中の高濃度PCB1.5kgを、
常温常圧、1バッチで分解無毒化することに成功しました。
また、2010年10月8日付け岐阜新聞、毎日新聞、読売新聞 11月4日付け中日新聞 11月17日付け朝日新聞の朝刊で当研究室開発の
PCB処理法について報道されました。
また、2010年10月21日に”CBCラジオ 気分爽快朝PON! グリーンマップ”にて当研究室開発のPCB処理法について報道されました。
詳細は以下のURLをご覧ください。
CBCラジオ http://blog.hicbc.com/blog/greenmap/archives/2010/10/21/111747.php#more
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